ゲームにもビジネスにも最適。ACEMAGICIAN AMR5-J32 実機レビュー

世の中はテレワークが当たり前の時代、パソコンと言えば場所を取らないノートPCが選択肢のトップに来る。だが、ノートPCの基本性能が向上し需要も高くなっている一方でその構成に不満を持つ人が増えている。ノートPCに採用されているパーツ単体で見ると必要にして十分な能力があるのだが、昨今のノートPCはオンボードメモリにオンボードストレージといったモデルばかりでありメーカーによる決め打ち仕様ゆえに増設が不可能なためだ。もちろん購入時に高額なオプション料金を払ってBTOカスタマイズする方法があるが、プライベートユースの1台や2台ならともかく、オフィスユース・ビジネスユースで複数台単位の購入では予算的にも逼迫するであろう。

であるならば、第三の選択肢とも言えるミニPCを検討してはどうか。ミニPCは基本性能はノートPCに準ずるが、長手(一番長い辺)が最長でも 20cm前後でありながらメモリやストレージなどの拡張性があるデスクトップPCで、利用環境に応じた増設が容易に行える。ビジネス用途でデスクトップPCを選択する最大の理由は拡張性なので、これならば敢えて大型で場所を取る一般的なデスクトップPCを選ぶ理由はなくなる。もちろんミニPCにもパーツ構成により性能差があるため機種選定もそれなりの注意が必要になるが、今回はそんな玉石混交のミニPCの中でおすすめできる1台を紹介していこう。

ミニPCとは?

昨今のノート用CPUの性能向上から生まれた「ノートPC用パーツで構成されたデスクトップパソコン」の総称で、サイズは長手の一辺が概ね 20cm以下となっており、イメージとしては弁当箱を想像していただければよい。ノートPC用パーツを採用する利点は小型化だけではなく省電力化に貢献しており、通常のデスクトップPCに比べ 1/3 – 1/5 もの省エネを実現した機種も存在する。もちろん小型故に専用 GPUこそ非搭載となるが、Ryzenのような性能の良いグラフィックチップを統合したCPU(AMD社ではCPUにグラフィック機能を併せた統合チップを APUと表記する)を採用することで一定レベルのGPU性能を有するに至っている。ノートPC用パーツを用いているが同型の CPU/APU を採用しているノートPCと比べメモリやストレージの増設など拡張性が格段に優れている。

AMR5-J32 ビジネスもゲームもこなすミニPC

今回紹介するのは ACEMAGICIAN AMR5-J32 だ。公式サイトによると

ACEMAGICIAN AMR5-J32 はコンパクトでありながら高性能。ワンスイッチ切替でアプリケーション環境を自由に合わせられ、省エネ・省スペース・省コストが魅力。ゲーム・クリエイティブ作業・オフィスワーク・オフィスサーバー・リモートワーク・オーディオ・ビデオ・映画・動画視聴など様々なシーンを満たすことができます。

Windows 11
512GB/Max4TB
Ryzen5 5600U
32GB/Max64GB
Wi-Fi6
upgradable

とあるようにCPU(APU)に AMD Ryzen を採用し、標準でメモリ32GB、ストレージ512GBと小型でありながらも高性能で拡張性のあるPCとなっている。

ハイスペックな基本構成、メモリ・ストレージのおかわり可能。

まずは この製品の簡単な概要と仕様説明をしていこう。

ACEMAGICIAN AMR5-J32 概要

ACEMAGICIAN」あまり聞き慣れないブランドだが、2021年に米国で設立されたブランドで、主に若者向けのPCガジェットを扱っており、日本での展開は INNOVA GLOBAL社 が行っており、万一の際でも安心のサポート体制を確立している。(サポートは同社正規輸入品のみ)

今回のレビューはゲーミングPCにもビジネス用途でも使えるオールマイティーなミニPC ということで Windows の pro版 を採用、 AMD 最新の Zen3 をベースとした Ryzen 5 5600U を搭載、標準でメモリ32GB、ストレージ512GB と余裕のある構成のものをお借りした。レビュー機も例に漏れず増設の余地を持たせてあり、M.2スロット×1、SO-DIMM DDR4 メモリスロット×1 がそれぞれ空きスロットとして用意されている。

今回の評価機スペック

  • 型番:AMR5-J32
  • Windows 11 Pro 64ビット
  • AMD Ryzen 5 5600U (6core 12thread)
  • SSD 512GB M.2 2280 NVME/NGFF(空きスロットx1)
  • SO-DIMM DDR4-3200 32GB memory(空きスロットx1 最大で64GBまで拡張可)
  • Wi-Fi 6 (ac/ax対応)

外観とインプレッション

ファーストインプレッション

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まず目につくのはその外観で、とにかくが小さく手のひらサイズと言っても良い。電源を入れる前の段階ではおとなしめ、筐体形状は濃いガンメタリック色(Ryzenロゴや外箱のグレーを彷彿とさせる)に塗られ、裾が広く上部が狭いいわゆる台形型になっている。ゲーミング用途を前提として設計されているため、ボディーサイド(左右)にイルミネーション用透過穴が配置されている。もちろんイルミネーションは電源オン時限定で発光するので、電源を切った状態での外観はおとなしいものとなっている。(イルミネーションは後述のソフトウェアでON/OFF切り替え、ライティング制御可)

 モード切替(クリックで拡大)

電源ボタン部分はダイヤル式になっており、利用用途に応じて動作モードを切替可能。動作モードは【サイレント・オート・パフォーマンス】と変更可能。それぞれ異なるカラー(青・緑・赤)で発光する。また、上面の製品ロゴ(ACE MAGICIAN)はイルミネーションになっているので電源オン時にはイルミネーションとして灯火されている。普段はオートモードで足りるが、ゲームや重い作業をする場合はパフォーマンスモードに切り替えることになる。

 サイレント(クリックで拡大)
 オート(クリックで拡大)
 パフォーマンス(クリックで拡大)


明るい場所でのイルミネーションの様子

暗い場所でのイルミネーションの様子

オフィス利用などでイルミネーションを点灯させないようにしたい場合や点灯カラーを制御したい場合は ACEMAGICIAN にて配布している 専用の制御ソフトウェア「AMR5 RGB Control Software」(Windows用) を利用するとよい。

外観

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※上記画像はメーカー参考画像のため、ロゴ等一部製品と異なる箇所があります。

機能性能・使用感

CPU・GPU・メモリー

CPU/GPU/メモリーの性能は下記のとおり。CPU(APU) は AMD Ryzen 5 5600U を採用。Uモデルなので TDP15W と低電圧版ではあるものの、設計が 7nmプロセス、6コア12スレッド 2.3GHz/4.2GHz L3キャッシュ16MB と重い作業も楽々こなせる実力を持つAPU(CPU)を採用。グラフィックは APU統合の AMD Radeon 7コア 1800MHz(初期割当グラフィックメモリーは512KB) なので通常の運用だけでなくフォトレタッチ、イラスト作成、4K動画再生や軽めのゲームなどにも対応する。メインメモリーは ADATA の SO-DIMM DDR4 32GB を 1枚搭載。容量に余裕があるので普段遣いでの拡張は不要だが、1枚なのでシングルチャンネルでの動作だ。もしゲームなどで少しでも応答速度が求められる場合や大容量のデータを扱う場合は空きスロットにもう一枚追加 して64GBのデュアルチャンネルで構築しても良いだろう。
※2022年9月末現在 SO-DIMM DDR4-3200 32GB メモリの市場価格は ¥15,000~ ¥25,000

CPU-Z 表示結果 クリックで拡大

SSD(ストレージ)

ストレージには M.2 2280 規格のものが採用されている。スペック的には PCIe3.0 に留まるが、読み込み 2,500MB/s、書き込み 1,800MB/s 程の速度が出ているため体感的な遅延は皆無、搭載されているメインメモリの多さからも余程特殊な利用以外ではメモリスワップも起きないので非常に高速に動作している。本機には標準で 512GB と大容量のストレージを採用しているため増設の必要を感じない。こちらもメモリー同様に空きスロットがあるため必要に応じて増設することができる。最大容量は現在利用している512GBストレージを2TB に換装すれば 2TB×2 の 4TBまで拡張可能となっている。
※2022年9月末現在 NVMe M.2 Type 2280 PCIe Gen 3.0×4 2TB の市場価格は ¥20,000 前後

ストレージ概要  クリックで拡大

OS(オペレーティングシステム)

本機の OS は最新の Windows 11 Pro が採用されている。本来の用途はゲーミングを意図していると思われるが、OS が Pro版なので ビジネス用に流用することも可能だ。起動直後はメーカー製 PC のようにゴチャゴチャと不要なアプリケーション満載ということもなく至ってシンプルだ。本機でマイクロソフトオフィス製品を利用したい場合は Office 365 あるいは POSA 版(買い切り版)オフィス のいずれかを利用することになる。

画面表示

画面表示用の出力は HDMI、Display Port、USB Type-C の 3系統 3画面となっている。このうち HDMI と DisplayPort は本体背面での接続となるが、USB Type-C のみフロントのポートを利用することになる。もちろんそれぞれのポートで 4K 出力に対応しているが、APU内蔵グラフィックゆえに複数枚の 4K 出力はあまり現実的ではない。筆者感覚ではあるが FHD(1920×1080) の 2画面構成までであれば本体に負荷をかけること無く表示可能だろう。

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なお、HDMI / DisplayPort ともに 60Hz出力となっているため 120Hz や 144Hz、あるいは 240Hz などのいわゆるゲーミングディスプレイ利用時であってもリフレッシュレートは 60Hz に制限される。参考までに今回は HDMI にて 4K 60Hzディスプレイ(DELL U2723QE)と接続して検証している。

Wi-Fi 6 と Gigabit LAN

本機は従来の Wi-Fi規格 IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5) に比べ、最大で 3倍の速度を誇る IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)を搭載している。Wi-Fi 6 対応のルーターを介せば高速で安定した通信が可能。もちろん Wi-Fi 6 に対応していない環境下でも従来の規格 IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)に対応している。また、環境によっては無線環境が利用できない場合でも本機には有線接続の Gigabit LAN (1Gbps) を備えているので安心だ。

BIOS

本機の BIOS は自作PC愛好家や中級者以上であれば見慣れた AMI 製の BIOS である。通常は触らない項目なので気にする必要はないが、仮に設定項目を変更する場合であっても本機種用に独自のカスタマイズ項目がいくつか存在するが悩むようなことはないだろう。

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拡張性

本機は小さいながらも豊富なポート類を搭載している。まず、USB だが、USB Type-A (3.0) が 4ポート、USB Type-C (3.2) が 1ポートとなっている。特に USB Type-C については 10Gbps+ の高速転送が可能な上、ディスプレイ出力にも対応している。その他のポート類については音声入出力 ×1、DisplayPort(4K 60Hz) ×1、HDMI 2.0(4K 60Hz) ×1、GigabitLAN(1Gbps) をがある。

そして本機の売りでもある内部の拡張性について見ていこう。内部の拡張はストレージとメインメモリに分けられるが、それぞれが2スロットを搭載しており、購入時の状態でそれぞれ 1スロットが空きとなっている。ストレージの最大容量は基本構成である 512GBストレージを2TBに換装した場合、2TB×2 の 4TBまで拡張可能となる。メインメモリの拡張は基本構成の32GBに同一容量のメモリモジュールを追加した場合、64GBまで拡張可能となっている。(それぞれの仕様は前述を参照)

外部ポート類  クリックで拡大
内部の拡張性  クリックで拡大

ベンチマーク

CINEBENCH R23

読者諸氏や筆者が大好きな CINEBENCH。今回は R23 での計測結果を見てみよう。

まずはじめに、この検証は通常の利用環境を再現するために【パフォーマンスモード】で実施した。本機は サイレント・オート・パフォーマンス の 3つのモードがあるが、パフォーマンスモードでベンチマークを回しているときの CPU 稼働率は 100% に張り付く勢いだが、これはスペック不足というわけではなく負荷をかけるベンチマークの仕様のため。発熱については CPU 稼働率 100%でもサーマルスロットリングは発生せず安定している。もちろん CPU を最大限利用するため冷却ファンが元気よく廻っている音が聞こえてくる。

シングル性能比較で計測結果は スコア1311。Intel 第7世代 Core i7 のデスクトップ版最上位 7700K のスコア1230 を上回る。世代差を考慮してもノートPC(ミニPC)用の 低電圧版(Uモデル)CPU/APU でデスクトップ版の最上位 CPU の K付きモデルを超えているのはなかなかの健闘ぶりだ。

マルチ性能での計測はスコア7396。低電圧版 6コア12スレッドながらも 12コア24スレッドの Intel XEON (E5-2697v2) に追従する形であり、Intel Core i7 7700K を大幅に上回っている。Ryzen の ZEN3 ともなれば高性能なのはわかっていたのだが、シングルマルチともにひと昔前の最上位 CPU 以上なのは驚きである。

CINEBENCH R23  

Dragon Quest X benchmark 他、ゲーム用途では

本機はミニPCではあるが同時にゲーミングPCと謳っている。もちろん外部にグラフィック機能を持っているわけではないので FFXV のような 3Dゴリゴリの重いゲームについては動作対象外となるが、DirectX 環境の代表格ドラクエX での検証では快適に動作することが確認できた。

設定条件は1920×1080 最高品質。APU統合の 7コア Radeon Vega。統合グラフィックチップなのだが特にストレスなく動作している。排熱ファン音は聞こえるものの爆音と言うほどではなくサーっという音が聞こえる程度であった。

ドラクエX FHD最高画質  

その他のゲームプレイでは FPSゲームの PUBGでは FHD 60Hz で軽めの設定にして継続してプレイ可能、マインクラフト Windows統合版ではフル画面でカクツキもなく快適なプレイが可能であった。nVidia GeForce や AMD Radeon RX などの GPU には及ばないものの、前述ゲームのライトユーザーにとっては悪くない選択だと思う。


筆者目線の気になるポイント

極小サイズでありながら拡張性に優れ全体的にバランスの取れた構成の AMR5-J32 だが、筆者目線で気になるポイントが無いというわけでもない。それらについていくつか言及していく。

メインメモリがシングルチャンネル

本機は AMD Ryzen の 最新APU 5000番代を採用しており、とても快適に動作する。だが、この仕様を最大限に活かすためにもメインメモリはより高速に動作するデュアルチャンネル動作であって欲しかった。そもそも32GBという必要にして十分以上のメモリを搭載するのであれば 16GBx2 ではいけなかったのかと考えさせられてしまう。本機の想定ユーザーのほとんどが容量的には増設無しで困らないだろうが、標準構成のメインメモリをデュアルチャンネルで動作させるためには64GBへと増設が必要になり、それなりの出費を必要としてしまう。

スペック表はどこにある?

本機とは直接関係があるわけではないが、購入を検討する上で気になるであろう仕様表が(2022年9月末の執筆時点で)本国のメーカーサイトおよび代理店サイト、ダウンロード資料中のいずれにおいても見つけることができなかった。もちろん CPU(APU) が何であるとか、メモリやストレージ容量がどのくらいでサイズや重量がいくつだとかいう情報についてはサイト上にあるが、チップセットが何で、Bluetoothのバージョンがいくつで、Wi-Fiのチップは何を採用しているなど、いわゆる「詳細なスペック表」と呼ばれるものが見つけられなかった。OS に Windows の Pro版を採用しているのであればビジネス用途での購入も期待できるが、情シス担当が検討するための仕様表が見当たらないため検討落ちしてしまうのは残念でならない。

イルミネーションの制御はどうすればいい?

今回のレビューで困惑したことがひとつある。それはイルミネーション機能についてなのだが、マニュアル(およびWEBサイト)のどこを探してもイルミネーション制御用関連の情報を得ることができなかった。ゲーミング用途専用であったとしてもライティングのオンオフ機能に言及していないのは如何なものか、機能カットできるかどうか不明なのでビジネス用途として検討することもできない。幸いにして本国のブランドサイト にて配布している 専用の制御ソフトウェア「AMR5 RGB Control Software」(Windows用) があったため事なきを得たが、告知なしでダウンロードページに辿り着けるユーザーはごく一部に限られるのでこちらも改善してほしい点である。

今回はレビュー機をお借りしての記事ではあるものの、上記の後述2つについてはあえて忖度せず言及させていただいた。どちらも製品に起因するものではないので今後の改善対応を期待したい。

所感と総評

AMD Ryzen の最新版である ZEN3 をベースとした Ryzen5 5600U を採用することで性能を大きく向上させたミニPCに仕上がっている。ミニPC ゆえに熱の問題等を考え上位の 5800U ではなく 5600U をチョイスしていることを敢えて評価したい。全体バランスだが、ゲームや重めの動作を中心に利用したい場合は先程述べたようにメモリをデュアルチャンネルに増設してプレイすると良い結果が出ると思う。Windows11 Pro を採用しているのでビジネス用途にも向いている。6コア12スレッドの演算能力に加え 32GBというメモリ容量に助けられているため重いエクセルファイルでもストレス無く集計可能だろう。ミニPCの構成要素「省スペース」「省電力」「処理性能」「拡張性」は満足のいくレベルで仕上がっている。また、余分なコストをカットするためか、使いもしない安っぽいマウスやキーボードを付属させない点は高く評価できる。どれでもいいというユーザーはECモールなどで探せば無線対応のマウス・キーボードセットを 1,000円台で探すことも可能だが、キータッチやマウスのボタン数や配置にこだわりがある場合や光り物が好きな場合などでは自由に市販品を組み合わせることができる。

※なお、最後になったが当然ながら本機には購入から1年間の保証がついていることを申し添えておく。

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