サーバールームの基準機、Schneider APC SRT シリーズを見てみよう。

サーバールームで必要不可欠な周辺機器と言えば無停電電源装置(UPS)です。24時間365日に渡って運用されるサーバーだからこそ停電の際でもデータを守ることは重要なミッションとなります。緊急時においてサーバー機器や PC に言えることは 「シャットダウンの際に正しく電源を落とすこと」 です。いきなり電源供給が遮断されてしまえば正しくシャットダウンすることもできませんし、書き込み中のデータが正しく保存されることもありません。そんな停電の際でも電源を供給し続ける機器が無停電電源装置(UPS)です。

この無停電電源装置(UPS)という装置、もともとは工場の生産ライン管理用 PC やサーバールームでの利用、医療現場、金融機関など、絶対に止まってはいけない機器の電源バックアップに利用されていたのですが、今では日進月歩の技術向上で一般にも広く普及し、大容量化やリチウムイオン電池搭載など多種多様なモデルがビジネス用途から家庭用までお馴染みとなった感があります。

今回はそんな無停電電源装置(UPS)の中でもサーバールームで活躍する最新機種がどの様に進化しているのかを見ていくことにします。

……今回の企画はプロモーションではないので実機調達は難しいのですが、本誌でもお馴染みのメーカー Schneider APC の担当者様にご協力をお願いしてサーバールーム用では一番人気の SRTシリーズから SRT1500XLJ の実機をお借りしました。

Schneider APC SRTシリーズ について

Schneider APC SRTシリーズは高密度、ダブルコンバージョン型常時インバーター方式の UPS で、現在のところ 1000VA~10000VA までラインナップ展開されています。SRTシリーズはラックマウント/タワーの両方に対応しているのでサーバールームやオフィスのレイアウト変更にも柔軟に対応しています。SRTシリーズの特徴としては、常時インバータ運転なので瞬断が発生しないこと、複数の拡張バッテリーパックを接続することで長時間のバックアップを可能などがあります。また、専用ソフトウェア PowerChute を用いてサーバー機器の安全なシャットダウンはもちろんのこと、オプションの ネットワークマネージメントカード を本体内に追加することでネットワーク管理に完全対応しています。

実機を見てみよう


Smart-UPS SRT 1500VA (SRT1500XLJ) ってどんな機種?

SRT1500XLJ は最大で 1500VA/1350W(標準:1200VA/1050W)まで対応の ダブルコンバージョン常時インバーター方式 UPS です。ランタイムは 1350Wで 7分25秒、800Wで 15分26秒、600Wで 22分10秒です。NEMA5-15R/20R x6、NEMAL5-20R x1 の出力となっています。また常時インバーター方式のため拡張バッテリーパックを最大で 10台までデイジーチェーン接続が可能です。この拡張バッテリーパックを利用することでランタイムの大幅な延長(最大容量と最大ランタイムは本体+拡張バッテリーパック x台数 に依存)が可能となります。

インプレッション

開梱前からわかっていたことですが、筐体はラックマウント 2U 規格で作ってあるので大きいです。そして鉛バッテリー搭載なので重いです。参考までにスペックシートを見ると サイズは約 85mm x 432mm x 587mm 質量 26.6kg となっています。

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全体的に大きい筐体。質量は 26.6kg

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奥行き(フロントベゼルから背面まで)58.7cm

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横幅(タワー型の場合は高さ)44cm

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高さ(タワー型の場合は横幅)2Uサイズ 8.5cm

箱から出してみると半完成品といった感じでフロントパネルや台座となる脚部は装着されていません。これはタワー型として利用した場合とラックマウント型として利用した場合の本体向きが異なるためです。半完成品と言ったものの、ディスプレイの保護カバーを外しフロントパネルをつけ台座脚部(同梱)あるいはレールキット(別売)を用いてラックに取り付けるだけなので初期設定作業と言うべきでしょうか。

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重量物ゆえにディスプレイは保護カバーで覆われている

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ディスプレイは保護カバーのネジ4本を外すと現れる

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脚部やマウンター取付用のネジ穴がある側面

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タワー型利用の場合は脚部(同梱品)をつける

付属品は フロントベゼル(フロントカバー)、PC機器との接続用のケーブル(USB / シリアル 各1本)、台座脚部一式(前後2組+固定ネジ)、緊急電源停止(EPO)端子。
外部接続用のプラグは NEMA 5-15P(PC機器でよく見かけるアース付き3ピン)、出力は NEMA 5-20R x6 / NEMA L5-20R x1 となっています。 NEMA 5-20R の出力は2系統のグループに分かれているので専用ソフトウェア PowerChute を用いて設定で「片方のグループのみ通電」や「両方休止」など細かい調整も可能です。
また本体には拡張スロットが搭載されているので、オプションの ネットワークマネージメントカード を本体内に追加することで 専用ソフトウェア PowerChute Network Shutodown によりネットワーク管理も可能となっています。ネットワークマネージメントカードについては以前の 特集記事の中 でも触れているのでチェックしてみてください。

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フロントベゼル(カバー)。ロゴは回転できるので好きな角度に調整可能。

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USBケーブル・シリアルケーブル

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脚部セット(ビス同梱)

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緊急電源停止(EPO)端子

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本体直付けの電源ケーブル(NEMA 5-15P)

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出力は NEMA 5-20R x6 / NEMA L5-20R x1

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PC機器とは USB またはシリアルにて接続

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拡張スロット(未使用時はカバーされる)

製品仕様

運転方式 ダブルコンバージョン型常時インバーター方式
出力波形 正弦波
出力 最大設定対応電力 1350W
負荷運転 1350W 時 の運転時間 7分25秒
出力コンセント NEMA 5-20R x6 /NEMA L5-20R x1
接続インターフェイス 電源入力:NEMA 5-15P
PC接続:USB Type-A( A to A ケーブル付属)、シリアル接続(RJ45 to RS232C ケーブル付属)
拡張スロット x1
製品使用時の形状 タワー型(脚部付属) / 2U ラックマウント型(レールキット別売)
サイズと質量 約85 x 432 x 587(mm)
本体質量 26.6kg
対応ソフトウェア
(別売)
PowerChute Business Edition
PowerChute Network Shutdown(要:ネットワークマネージメントカード)

出典:Schneider APC Smart-UPS SRT1500XLJ 製品ページ

主な機能・特徴

このSRTシリーズには他にはない特徴がいくつかありますのでご紹介していきます。

ダブルコンバージョン常時インバーター方式で瞬断なし

これの何がすごいのか。文字からは推測すらできませんが、簡単に言うと「(電力会社から)送られてきた電力を均一化(安定)させて機器に送り出す」という仕組みになります。この仕組みの恩恵として停電でバッテリー運転に切り替える際に瞬断が起きないというのも特徴の一つになります。仕組みについては下記枠内をチェックしてみてください。

ダブルコンバージョン常時インバーター方式って?

ダブルコンバージョン常時インバーター方式。長い呼称なのでわかりにくいですが、仕組みを知る上で「ダブルコンバージョン」と「常時インバーター」に分けて考えてみましょう。

ダブルコンバージョン方式

ダブルコンバージョン方式とは、供給される電力(交流電力)を整流器(コンバータ)をとおして直流電力に変換し、蓄電池の充電に使用しつつ、インバータを使って交流電力に変換し外部接続機器へ供給する方式です。何を言ってるのかさっぱり?? という方のためにわかりやすく図を使って説明すると……

通常運転時
  1. 壁のコンセントからUPSに入った電力(交流:AC)を整流器(コンバータ)を使って直流(DC)電力に変換。
  2. 変換した直流(DC)電力を使ってバッテリーを充電しながらも UPS接続機器のためにインバータで交流電力に変換してへ出力。

【交流>直流>交流】 と2回変換しているので「ダブルコンバージョン」と呼ばれます。

参考までに、停電などで外部からの電源供給が遮断された際の挙動は下記のとおりです。充電されたバッテリーからインバータを経由して外部へと出力していることがわかります。

停電等の電源遮断時

常時インバーター方式

電力状態に関わらずインバータを通すことによって常時安定した電力を接続機器へ供給する仕組みで、常にインバータ経由で給電するので「常時インバータ方式」と呼ばれます。と言うのも、電力会社が供給する電力は一定ではありません。あくまでも例えですが、一般用電力 100V を考えた場合、電力会社は「だいたい100Vくらいの電力を適当に使えるようにしておくからあとはよろしく!」のような感じで電力を供給してくるので 98Vだったり105Vだったりノイズが混じっていたり。そのままでも使えるけれど安定していない状態が続きます。これを整流器やインバータを経由することで波形を安定させ電力を均一に慣らしてくれるという仕組みです。この方式は最も安定した高品質な電源を供給するため、バッテリー駆動への切換時に瞬断を発生させず連続した運転が可能という特徴があります。最強に近いこの方式ですが、デメリットとしては製造時の部材コストが高いことでしょうか。

参考までに IT関連で利用される一般的な UPS で採用されている 3種類の給電方式「常時インバータ給電方式」「常時商用給電方式」「ラインインタラクティブ方式」をご紹介します。これらの違いを大雑把に説明すると、外部からの給電をインバータを通じて電力を安定させ高品質な電源を接続機器に供給する「常時インバータ給電方式」、シンプルな仕組みで外部からの電力をそのまま接続機器に供給する「常時商用給電方式」、両者の中間的な方式で外部からの供給電圧が変動し不安定な場合にトランスにより電圧を安定させて出力する「ラインインタラクティブ方式」の3つです。

3つの中でも最も安定した高品質な電源を供給するのが「常時インバータ方式」になります。

常時インバータ方式 > ラインインタラクティブ方式 >常時商用給電方式

性能順はこのようになります。Schneider APC 製品では SRTシリーズは常時インバータ方式を、SMTシリーズはラインインタラクティブ方式を採用しています。

拡張バッテリーパックの増設

今回の検証機は単体でお借りしたので拡張バッテリー接続については未検証となりますが、マニュアルを見ると接続は簡単、デイジーチェーン方式にて接続し、最大で10台までの拡張バッテリーを増設可能となっているようです。下記図は本体に 2台の拡張バッテリーパックを接続している様子です。容量はそれぞれ本体機種同等の容量を増設することになります。今回の例では本体が SRT1500XLJ なので 1.5kVA の SRT72BPJ を最大10台まで接続可能です。本機は UPS単体で 1350Wの負荷時では 7分25秒のラインタイムなので、拡張バッテリーパック 10台接続時は 4時間48分ものランタイムを得られるということになります。

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拡張バッテリーパック接続用端子(本体側)

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拡張バッテリーパックの接続方法

対象UPS(本体) 拡張バッテリーパック
SRT1000XLJ(1kVA) SRT48BPJ
SRT1500XLJ(1.5kVA) SRT72BPJ
SRT2400XLJ(2.4kVA) SRT96BPJ
SRT5KXLJ(5kVA) SRT192BPJ
SRT8KXLJ(8kVA) SRT192BP2J
SRT10KXLJ(10kVA)

タワー型でもラックマウントでも

本機はタワー型・ラックマウント設置の両方に対応しています。1台で環境に応じて使い分けることが出来るので、例えばサーバーの改修や統合などで余った ラックに入っていた SRTシリーズをタワー型としてオフィス内で利用することも可能です。

タワー型の設置例

緊急停止 EPO(Emergency Power Off)対応

緊急電源停止機能(EPO)は接続されている負荷機器すべてをAC 電源から直ちに切断する安全機能です。この機能を利用すると UPS はバッテリー電源に切り替わることなく電源が切れます。接続機器に重大な障害が発生したときなど緊急を要するトラブル時に即電源を切りたいときなどに利用することができます。

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EPO端子(同梱)用のスロット(本体下部青い端子)

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緊急電源停止(EPO)端子

機器の接続と使用感

初期設定・設置ができたところで機器を接続・設定してみましょう。

接続

本機は 6つのコンセントを利用可能で、3コンセント x2系統(各グループで合計20Aまで) の電源グループが設定可となっています。(その他にNEMA L5-20R を 1つ搭載していますが、特殊な形状のため割愛)
このコンセントグループを分けることでそれぞれのグループに属した機器の設定を行うことができます。グループに属した機器の挙動を制御するためには 専用ソフト PowerChute Business Edition あるいは PowerChute NetworkShutdown のいずれかが必要になりますが、これによりグループによって再起動時間をずらしたり、緊急時の挙動を制御したりとサーバー運用に必要な時間軸を自在に操ることができます。過去記事「PowerChute Business Edition 導入ガイド」 で PowerChute Business Edition のソフトウェア設定を詳しく解説しているので参考にしてください。

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コンセントグループが2系統に分かれており詳細な設定は専用ソフトウェアで行う

設定など

LEDの調整

液晶ディスプレイ部分の表示は明るい場所での視認性も良好で、LED の色を変更することも可能です。設定カラーは白・琥珀色・赤が用意されており、初期状態では「白色=通常時」「琥珀色=ワーニング」「赤色=アラート」となります。カラー以外は「明るさ」と「コントラスト」も調整可能です。

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白色LED(通常時)

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琥珀色LED(ワーニング)
停電発生時など

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赤色LED(アラート)
バッテリー切れなど

ディスプレイ角度調整

タワー型の場合はともかく、サーバーラックに設置する際に、例えば足元付近の場合は上部からの視認性は皆無となってしまいます。そのため、本体の液晶ディスプレイは角度調整が可能です。

やりかたは至って簡単。フロントベゼルを開け、ディスプレイ下部のボタンを押しながら角度を変更しフロントベゼルを戻すだけです。もちろん電源ONの状態でも調整可能です。

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ディスプレイの角度調整

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ディスプレイの角度調整

液晶ディスプレイはタワー型・ラックマウント型の双方で利用するために 90° 回転させることができます。これにより常に正しい方向でディスプレイを設置可能です。

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90° まで回転可能な液晶ディスプレイ

言語設定

本体液晶ディスプレイに表示設定できる言語は本体メニューの設定項目から選択します。「日本語」「英語」「フランス語」「イタリア語」「ドイツ語」「スペイン語」「ポルトガル語」「ロシア語」の 8言語となります。本機は国内のデモ機ということもあり初期値は「日本語」となっていました。

使用感

今回は高負荷の適当な機器がなかったので比較的負荷の高そうなゲーミングノートを接続してみました。検証結果は……

なんと申しましょうか……。本機は1500VA(1350W)タイプの製品なので筆者のレビュー環境下の接続機器(ゲーミングノート PC 1台(RTX3060 / 第11世代 Core i7 8core 16thread):最大でも約180W、検証のため内蔵バッテリー取り外し状態)程度ではビクともしませんでした。

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(画像1)大容量のため検証環境では負荷が低すぎる

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(画像2)FHD 動画編集時の負荷 101W/107VA

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(画像3)通常作業時の負荷 58W/61VA

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(画像4)58W/61VA 時のランタイム時間 3h20m

UPSのディスプレイに表示された情報を見ると「負荷が低すぎます」と表示されてしまうほどです。(画像1)もちろんこの状態でも不具合や問題があるというわけではなく、UPS に「余裕すぎて暇です」と言われている状況となります。この状態でメーカー公表値のランタイム時間は 約2時間となりますが、あくまでも PC が最低でも 135W で動いていた場合の話。実際の消費電力は動画編集での負荷時 101W/107VA(画像2)、平均 58W/61VA (画像3)なので 1500VA の本機であれば 3時間20分(画像4)程度は行くようです。そもそも UPS は停電時などに活躍するので試しに UPS のコンセントを抜いて擬似的に停電状態を作り出しましたが、当然ながら問題なく動作していました。返却期限が決まっていたためこれ以上の検証ができなかったのは残念ですが、次の機会には消費電力の高そうなデスクトップゲーミング PC のフルセットで検証してみたいものです。

ソフトウェアおよびネットワークカードのインストールですが、今回は割愛しています。基本的に SMT シリーズとソフトウェアもネットワークカードも挙動も共通なのでご興味のある方は 過去記事 を参照してください。

動作音はそこそこあります。正面約30cmでの計測結果は 36~46db前後です。もちろんこの測定は室内状況や設置環境によって異なりますのであくまでもレビュー時の環境下ではという注釈付きとさせていただきます。公式サイトでは 本体から 1mの隔離で 50db となっているので実測並といったところでしょうか。一般的に40db とは静かな室内(図書館の中とか)と表現されることが多いのですが、正直なところ単体の機器が発生させるノイズで40db 前後となると気になるレベルです。基本的にサーバーでの使用を想定しているので排熱処理が必要になるためファンの駆動音があるのは仕方ないと割り切るしかありません。筆者の利用する同社製 SMT750 がほぼ無音動作であることを考えるとサーバールームでの設置であればそれほど問題にはならないですが、オフィスで複数台利用は厳しいかもしれませんね。

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正面30cm付近で計測

編集後記

最新のサーバー用 無停電電源装置(UPS)を見てきましたが、技術革新が著しいと言っても良いでしょう。電力効率は脅威の95%を誇りますし、容量が不足するならデイジーチェーンで最大10台も増設(容量は追加のバッテリーユニットに依存)できます。さらにはサーバールームで嬉しい常時インバータ方式の「切替時の瞬断なし」。これにより供給電力が一瞬でも不安定になる心配がありません。信頼性を求めるサーバールームでの利用だからこそ選ぶ価値があります。

今回は時間的な都合で駆け足で見ていきましたが、じっくりと検証したいSE/情シスの皆さん、検証機の手配も可能(法人限定)なのでぜひ下記フォームよりご連絡ください。機器本体から周辺パーツまでワンストップでお任せいただけます。もちろん他の機種が気になっているというご相談も承ります。

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